生成AIを業務に入れた会社が気にするリスクの上位に、著作権がある。総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIの活用で懸念されるリスクとして、日本企業は「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」を最も多く挙げ、次いで「出力結果の精度に問題がある」、「著作権等の権利を侵害する可能性がある」の順だった。
私の見方では、著作権の不安の多くは、法律が分からないことより、社内で「何をしてはいけないか」が決まっていないことから来る。社員はAIで作った画像を資料に貼ってよいのか分からず、法務は個別に聞かれて答え続ける。ここでは、文化庁が公表した2つの資料をもとに、学習・生成・利用の段階ごとに論点を整理し、社内ルールで決めておくことを表にまとめた。法的な結論は個別の事案で変わるので、最後に確認先も書いた。
社内利用規程の全体の作り方は生成AIの社内利用規程の作り方に、入力した情報が学習に使われるかどうかは生成AIに学習させない設定にまとめてある。この記事は著作権だけを扱う。AIを業務に定着させる役割としてのFDEについてはFDEとは?に書いた。
文化庁の2つの資料と、段階の分け方
土台になるのは、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)と、文化庁著作権課の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日)だ。前者は現行の著作権法がAIにどう適用されるかの考え方を示したもので、それ自体に法的な拘束力はない。後者は前者などを踏まえ、立場ごとにリスクを下げる取組みを並べたものだ。
「考え方」は、「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」を分けて考える必要があるとしている。行われる利用行為も、関係する条文も違うからだ。さらに、AI生成物が「著作物」に当たるかは、別の問題として分けて考える。企業の立場から見ると、次の表になる。
| 段階 | 何をするか | 主な論点 | 企業が当たる場面 |
|---|---|---|---|
| 開発・学習 | 学習用データの収集と複製、モデルの学習 | 著作権法第30条の4(非享受目的) | 自社でモデルを追加学習する、RAG用のデータベースを作る |
| 生成・利用 | AIで画像や文章を生成し、公表・販売する | 類似性と依拠性 | 社員がAIで作ったものを社外に出す |
| 生成物の著作物性 | AI生成物が著作物になるか | 創作意図と創作的寄与 | 生成物を自社の権利として守りたい |
チェックリストは関係者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」「業務外利用者」に分けている。生成AIを業務で使うだけの会社はAI利用者だが、基盤モデルにファインチューニングを施せばAI開発者の項も参照するよう書かれている。自社がどこに当たるかを最初に決めておくと、読むべき項目が絞れる。
学習段階——第30条の4と、適用されない場合
「考え方」によると、AI開発のような情報解析など、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(非享受目的の利用)は、原則として著作権者の許諾なく行える。「享受」とは、著作物の視聴等を通じて知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為をいう。
ただし、適用されない場合がある。
- 享受目的が併存する場合。たとえば、学習データの著作物の類似物を生成させることを目的とした、意図的な「過学習」などの追加学習のためのデータ収集
- 著作権者の利益を不当に害することとなる場合。たとえば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物を、AI学習のために複製する場合
- robots.txtやID・パスワードによる認証で、AI学習のためのクローラのアクセスを制限する技術的な措置を回避して収集する場合(将来販売される予定のデータベースだと推認できるとき)
海賊版などの権利侵害複製物を掲載していると知りながら、そのサイトから学習データを集める行為は、「厳にこれを慎むべき」とされている。
RAGにも触れている。既存の著作物の創作的表現の全部又は一部を生成AIで出力させることを目的とした一部のRAG等について、そのための入力用データの収集には第30条の4が適用されないと考えられる、とした。一方で、第47条の5の要件を満たす限りでは、許諾なく可能となる場合があるとも書いている。社外の記事や書籍をRAGに入れる計画があるなら、設計の段階で法務と範囲を決めておく。RAGの設計そのものはRAG構築の進め方にまとめた。
生成・利用段階——類似性と依拠性
AIで生成した画像をSNSに上げたり、複製物を販売したりする場合は、通常の著作権侵害と同じ基準で判断される。既存の著作物との類似性(創作的表現が共通していること)と依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められ、権利制限規定の対象外であれば侵害になる。どちらかが認められなければ、侵害にはならない。
生成AIならではの論点は依拠性にある。「考え方」は、既存の著作物が学習データに含まれていた場合、AI利用者がその著作物を認識していなくても、通常、依拠性があったと推認されるとしている。チェックリストは、プロンプトに既存の著作物そのものや、作品の題号、キャラクター名などの固有名詞を入力した場合は、依拠性が認められやすくなると書く。
もう一つ大事なのは、生成と利用を分けて考えることだ。チェックリストによれば、企業の内部で、権利者から許諾を得て利用することを前提に検討の過程で生成する場合(第30条の3)などは、権利制限規定の範囲内なら許諾なく行える。しかしAI生成物のインターネットでの配信や複製物の譲渡は、権利制限規定の範囲外となる場合が多いと考えられる、としている。社内の検討資料で使うことと、広告や製品に載せることは、同じルールでは扱えない。
侵害が起きた場合、権利者は差止めや廃棄を請求できると考えられる。「考え方」は、一定の場合には、AI開発事業者に対して学習用データセットからの除去を請求できるとも書いている。
AI生成物は著作物になるか
「考え方」では、人が何も指示しないか簡単な指示を与えるだけで、AIが自律的に生成したものは、著作物に当たらないとされる。人が思想又は感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使ったと認められれば著作物になり、AI利用者が著作者になる。道具として使ったかは、創作意図と創作的寄与で判断される。
判断の要素として、次の例が挙がっている。
| 要素 | 「考え方」の整理 |
|---|---|
| 指示・入力の分量 | 創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高める。長くてもアイデアを示すだけの指示は影響しない |
| 生成の試行回数 | 回数が多いこと自体は影響しない。生成物を確認し、指示を直しながら試行を繰り返す場合は、著作物性が認められる場合もある |
| 複数の生成物からの選択 | 単なる選択行為自体は影響しない |
| 人による加筆・修正 | 創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分は、通常、著作物性が認められる |
私の見方では、ロゴや広告の主なビジュアルのように、自社の権利として他社の模倣を止めたいものは、AIの出力をそのまま使わず、人が手を入れる工程を残すほうがよい。逆に、社内の議事録や下書きのように守る必要のないものに、この議論を持ち込む必要はない。
社内ルールで決めておく7つのこと
チェックリストの「AI利用者(業務利用者)のリスク低減方策」を、社内ルールの項目に置き換えると次の7つになる。右の列はチェックリストの項目番号だ。ルールの例は私の整理で、文化庁の資料に書かれているものではない。
| # | 決めること | ルールの例 | チェックリスト |
|---|---|---|---|
| 1 | 使ってよいサービス | 利用規約で他人の著作物の入力が禁止されていないかを、導入前に確かめる | 3-1-1 |
| 2 | 入力してよいもの | 既存の著作物と似たものを作らせる目的で、他人の作品を入力しない。作品名・作者名・キャラクター名を指示に入れない | 3-1-3、3-1-7 |
| 3 | 社内利用と社外公開の線 | 社内の検討資料と、広告・製品・販売物を分ける。社外に出すものだけ確認の工程を通す | 3-1-4 |
| 4 | 公開前の類似の確認 | 画像検索や文章検索で、既存の著作物と似ていないかを確かめる | 3-1-5 |
| 5 | プロンプトの記録 | 社外に出す生成物は、使ったプロンプトと生成の過程を残す | 3-1-7 |
| 6 | 侵害が起きたときの手順 | 情報共有、利用の停止、権利者への対応、原因解明、再発防止の担当を決めておく | 3-1-2 |
| 7 | 社員への説明 | 「生成物が侵害になるか」と「生成物に著作権があるか」は別の問題だと教える | 3-1-1 |
チェックリスト自身が、これらを全部実施すれば法的責任を問われないという意味ではないと断っている。ルールは、侵害の可能性を下げ、起きたときに説明できる状態を作るためのものだ。5のプロンプトの記録は、依拠性がないことを説明する材料にも、生成物の著作物性を説明する材料にもなる。
ベンダーの著作権補償の読み方
生成AIのベンダーには、著作権侵害で訴えられた顧客を守る補償を出しているところがある。Microsoftは2023年9月7日にCopilot Copyright Commitmentを発表し、有償の商用Copilotサービスの利用者が著作権侵害で訴えられた場合に、防御し、不利な判決や和解の金額を支払うとした。2023年11月15日には、Azure OpenAI Serviceの商用顧客にも広げている。
条件がある。製品に組み込まれたコンテンツフィルターなどの安全機構を使うこと、侵害物を生成しようとしないこと、使う権利のない入力をしないことだ。私の見方では、補償は社内ルールの代わりにはならない。条件を守っていたことを示せる記録があって、初めて当てにできる。導入前に、使うサービスの補償の範囲と条件を、契約書で確かめておく。
迷ったときの確認先
文化庁は「考え方」を、判例・裁判例の蓄積や技術の発展に応じて見直すとしている。今の整理がずっと続くとは限らない。個別の判断に迷ったら、次の順で確かめる。
- 文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」と、チェックリスト&ガイダンスの原文
- 使っているサービスの利用規約と、補償の条件
- 自社の法務部門か、著作権に詳しい弁護士。文化庁も文化芸術活動に関する法律相談窓口を設けている
著作権は、生成AIのリスクの一つにすぎない。情報漏洩や出力の精度と合わせて、社内でどう使われているかを一度棚卸しすると、ルールの抜けが見つかる。私たちは、社内の生成AIの使われ方とルールを点検するAI利用セキュリティ診断を提供している。