AIエンジニアが社内にいない会社が、外から人を入れようとすると、選択肢は大きく三つある。人材派遣、業務委託(準委任)、請負だ。そこに最近、FDE(Forward Deployed Engineer)という呼び方の支援も加わった。どれも「外部のAIエンジニアが社内の仕事をする」点では同じに見える。
違いは、誰が指示を出し、誰が成果に責任を持つかにある。ここを取り違えると、思った働き方をしてもらえないだけでなく、法令の上で問題になることもある。この記事は、労働者派遣法と民法の条文、厚生労働省の基準を手がかりに、外部のAI人材の使い方を整理する。法律上の判断が要る場面では、社内の法務や専門家に確かめてほしい。
FDEという職種そのものの定義はFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容に、SESやSIerとの比較はFDEとSES・SIer・コンサルの違いに書いた。この記事は発注する側の判断に絞る。
派遣・準委任・請負は、誰が指示を出すかで分かれる
派遣は、受け入れた会社が指示を出す
労働者派遣法は、労働者派遣を、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること、と定めている。派遣会社が雇った人が、派遣先の会社の指揮命令を受けて働く。仕事の中身や進め方は、受け入れた会社が決めて指示する。
労働者派遣の事業を行うには、厚生労働大臣の許可が要る。派遣で人を受け入れるときは、相手の会社が許可を持っているかを確かめる。
準委任と請負は、受けた会社が自分の人に指示を出す
民法では、請負は仕事の完成に報酬を払う契約だ(第632条)。準委任は、法律行為でない事務の処理を委ねる契約で(第656条)、成果に対して報酬を払う約束もできる(第648条の2)。どちらの場合も、仕事をする人に指示を出すのは、受けた会社の側だ。
ここで大事なのは、契約の名前では決まらないことだ。厚生労働省は、労働者派遣と請負のどちらに当たるかは、契約の形式ではなく、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)に基づいて、実態に即して判断されるとしている。
この基準は、請負の形の契約でも、受けた会社が自分で業務の遂行方法の指示や労働時間の管理をし、業務を自分の業務として相手から独立して処理していなければ、労働者派遣事業になるとしている。独立して処理する条件の一つに、自ら行う企画、または自分の専門的な技術や経験に基づいて業務を処理すること、がある。
| 項目 | 派遣 | 準委任 | 請負 |
|---|---|---|---|
| 指示を出す人 | 受け入れた会社 | 受けた会社 | 受けた会社 |
| 払う相手と対象 | 派遣会社に派遣料金を払う | 事務の処理。成果に払う約束もできる | 仕事の完成 |
| 期間の上限 | 原則3年(下で説明) | 派遣の期間の上限は当たらない | 派遣の期間の上限は当たらない |
| 人を選ぶこと | 派遣先は人を特定する行為をしないよう努める | 契約で決める | 契約で決める |
| 向いている使い方 | 作るものと進め方を、自社で決めて指示できる | 専門家に、判断を含めて任せたい | 作るものが仕様として決まっている |
表の「向いている使い方」の行は、条文からの私の整理だ。
派遣でAI人材を受け入れるときに確かめること
派遣は、自社にAIの仕事を指示できる人がいるなら、手早く人手を増やせる形だ。ただし、法律で決まっていることがいくつかある。
期間の上限
労働者派遣法は、派遣先が同じ事業所の業務について派遣を受けられる期間を3年としている。過半数労働組合などの意見を聞けば、3年を限りに延長できる。それとは別に、同じ組織の単位で、同じ派遣労働者を受けられるのは3年までだ。派遣会社に無期で雇われている人の派遣などは、この期間の上限の対象外になる。
法律は、派遣で働くことは臨時的かつ一時的なものであることを原則とする、という考え方も示している。私の見方では、AIの仕組みを社内に根づかせたいなら、派遣だけに頼る計画は立てにくい。3年後に人が替わっても回るよう、作ったものの説明書きと引き継ぎの段取りを最初から決めておく必要がある。
人を選べない
労働者派遣法は、派遣先が、派遣される人を特定することを目的とする行為をしないよう努めることを求めている。紹介予定派遣は例外だ。AIエンジニアの腕の差は大きいが、派遣では事前の面接で人を選ぶことが基本的にできない。求める技術の要件を具体的に書いて派遣会社に伝えることが、受け入れる側にできることになる。
指示を出す人が社内にいるか
派遣で来た人は、受け入れた会社の指示で動く。言い換えると、何を作り、どう進めるかを決める人が社内にいなければ、派遣の人は力を出せない。AIの仕事では、ここがいちばんつまずきやすいと私は見ている。AIの使い道を選び、データを集め、評価の基準を決めるのは、まさにAIに詳しい人の仕事だからだ。
外部のAIエンジニアを準委任で頼むとき
準委任では、受けた会社が自分の人に指示を出す。発注した側は、何をしてほしいかと、どこまでの範囲を任せるかを契約で決める。
気をつけるのは、契約が準委任なのに、発注した側が外部の人に直接細かく指示を出してしまう場合だ。厚生労働省の考え方では、契約の名前ではなく実態で判断されるので、派遣の許可を持たない会社との間でこれが続くと、問題になりうる。日々のやり取りをどう分担するかは、始める前に決めておく方がよい。
準委任と請負の使い分け、AIの開発をどこまで外に出すかはAI開発は内製か外注かにまとめた。
FDEは、契約の形ではなく働き方の名前
FDEは、派遣・準委任・請負のような契約の種類ではない。顧客の現場に入り、業務の課題を一緒に決め、AIの仕組みを作り、使われるまで直す働き方を指す職種の名前だ。契約の形は、支援する会社ごとに違う。
私の見方では、派遣とFDEの違いは、何を作るかを誰が決めるかにある。
| 項目 | AI人材の派遣 | FDE |
|---|---|---|
| 何を作るかを決める人 | 受け入れた会社 | 顧客と一緒に、FDEの側も決める |
| 仕事の出発点 | 自社が決めた作業 | 業務の課題と、動かしたい数字 |
| 終わり方 | 契約の期間が終わる | 現場で使われ、社内で回せるようになる |
| 社内に要る人 | 指示を出せる、AIに詳しい人 | 業務の責任者と、判断できる人 |
表は、私の見方による整理だ。作るものが決まっていて、それを指示できる人が社内にいるなら、派遣や請負で手を借りる方が合う。何を作るべきかから相談したい、作ったものが使われるところまで見てほしい、という段階なら、FDEの形の支援が向く。FDEの支援会社を選ぶときに確かめることはFDE支援会社の選び方に書いた。
外部のAI人材をどの形で入れるかは、社内にAIの仕事を指示できる人がいるかで決まる。その見立てから相談したい場合の、私たちの支援の中身はサービスのページに書いた。