シャドーAIを減らす最初の一歩は、禁止でも規程づくりでもなく、今どのAIが使われているかを知ることだと私は考えている。一覧がなければ、どのAIを公式にし、どれを止め、どこに規程を書けばよいかを決められない。
実際の利用と、会社が把握している利用の間には差がある。VerizonのData Breach Investigations Report 2026によると、会社の端末でAIを日常的に使う社員の割合は、1年で15%から45%に増えた。そのうち67%の利用者が、会社のものではないアカウントでAIサービスを使っていた。Okta Japanの2026年の調査では、日本の経営幹部の84.6%が社員のAI利用を把握できていると答えた一方で、日本の従業員の47.5%が会社の承認していないAIを使っていると答えている(日本の回答者は87人と少ない)。
シャドーAIとは何か、どんなリスクがあるかはシャドーAIとは?にまとめた。ここでは、その前提になる棚卸し、つまり社内のAI利用状況を調査して把握する手順だけを扱う。
棚卸しで集める8つの項目
棚卸しの目的は、AIの名前を並べることではない。「誰が、どの業務で、どんなデータを入れているか」が分かる一覧を作ることだ。私は次の8つの項目で集めることを勧める。
| 項目 | 集める中身 | 何に使うか |
|---|---|---|
| AIの名前 | サービス名、拡張機能の名前、社内で作ったAI | 一覧の行になる |
| 契約の形 | 会社の契約か、個人のアカウントか、無料版か | 学習やデータ保存の設定を確かめる |
| 使う人 | 部署、役割、人数 | 影響の大きさを見る |
| 業務 | どの業務の、どの作業に使うか | 公式のAIで代わりになるかを見る |
| 入れるデータ | 顧客の情報、社内の文書、ソースコード、公開情報 | リスクの大きさを決める |
| つなぎ先 | ブラウザの拡張機能、メールやストレージとの連携、外部のツールの接続 | AIが読める範囲を見る |
| 設定 | 学習に使わせない設定、履歴の保存 | すぐに直せる設定を見つける |
| 頻度 | 毎日か、ときどきか | 公式にする優先順位を決める |
AIを一覧にして管理することは、海外の枠組みでも求められている。米国立標準技術研究所(NIST)が2023年1月に公開したAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF 1.0)は、GOVERN 1.6で「AIシステムを棚卸しする仕組みがあり、組織のリスクの優先度に応じて資源が割り当てられている」ことを挙げている。
とくに見落とされやすいのが「つなぎ先」の行だ。Verizonの同じ報告書は、平均的な会社では利用者の15%超が、許可されていないAIの拡張機能をブラウザに入れていたとしている。拡張機能は、画面に表示した社内の情報を読める場合がある。AIの名前だけを集める棚卸しでは、ここが抜ける。
社内のAI利用状況を調べる3つの方法
調べ方は、アンケート、ログ、聞き取りの3つに分かれる。私の見方では、どれか1つだけでは足りない。アンケートは申告されたものしか見えず、ログは業務の中身が見えず、聞き取りは人数を広げられない。
| 方法 | 見えるもの | 見えないもの | 向いている使い方 |
|---|---|---|---|
| アンケート | 本人が使っていると思っているAI、業務、困りごと | 本人が意識していないAI(拡張機能や、製品に組み込まれたAI) | 全社に広く配る |
| ログ | 通信先や連携の記録から分かる、実際に使われたサービス | どの業務で、何を入れたか | アンケートから漏れたものを見つける |
| 聞き取り | 業務の流れの中でどう使っているか、なぜ公式のAIでは足りないか | 全体の広がり | 利用が多い部署を選んで深く聞く |
ログで見る場所は、使っている製品によって違う。たとえば次のようなものがある。
| 見る場所 | 分かること |
|---|---|
| Microsoft Defender for Cloud Apps | アプリの一覧に生成AIの分類があり、1,000を超える生成AI関連のアプリが登録されている。社内で使われているAIを見つけ、90以上の項目のリスク評価を見て、許可するか止めるかを決められる |
| Google Workspaceの管理コンソール | Google Workspaceのデータにアクセスした外部のアプリの一覧と、アプリごとの利用者数が見られる。アプリごとに「信頼できる」「制限付き」「ブロック」を設定できる |
| Microsoft Purview(AI向けのデータセキュリティ態勢管理) | 生成AIのサイトでのやり取りと、機密情報が含まれていたかを見られる。外部のAIのサイトを見るには、端末をPurviewに登録しておく必要がある |
ログの仕組みがない会社でも、使っている製品の管理者の画面に、ブラウザの拡張機能の一覧や、メールやストレージに接続しているアプリの一覧がないかを確かめる。私の見方では、最初はそこから始めれば十分だ。
棚卸しの進め方
私は次の5つの順番で進めることを勧める。
| 順番 | やること | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 1. 目的を伝える | 経営層の名前で、棚卸しの目的を「使ってよいAIを増やすため」と伝える | 答えた内容で個人を責めないこと |
| 2. アンケートを配る | 全社に配り、8つの項目のうち本人が答えられるものを集める | 回答の締め切りと、答えなかった部署への声かけ |
| 3. ログと照らし合わせる | アンケートに出てこなかったAIを、ログと管理者の画面から探す | 誰がログを見るか、個人名をどこまで扱うか |
| 4. 聞き取る | 利用が多い部署で、業務の流れの中での使い方を聞く | 聞く人数と部署の選び方 |
| 5. 一覧にまとめて分ける | 見つかったAIを、公式に認める、条件付きで認める、止めるの3つに分ける | 分ける基準と、決める人 |
1つ目の順番を飛ばすと、あとの全部がうまくいかない。角川アスキー総合研究所の調査では、全社共通のガイドラインを整備している企業でも、公式外のAIを使った経験がある人は46.9%で、一部だけ整備の企業の50.0%と大差がなかった。規程があっても使われている以上、棚卸しは「違反の摘発」ではなく「実態の把握」として始めないと、正直な答えは集まらない。
アンケートの設問例
設問は、使っているかどうかを問い詰める形にしない。どの業務で、何に困って使っているかを聞く。
| 聞きたいこと | 設問の例 |
|---|---|
| 使っているAI | 仕事で使ったことのあるAIのサービスや機能を、思いつく限り書いてください(ブラウザの拡張機能や、ほかのソフトに入っているAIも含みます) |
| 契約の形 | そのAIには、会社のアカウントで入っていますか。個人のアカウントですか |
| 業務 | どの業務の、どの作業に使っていますか |
| 入れるデータ | 入れたことのある情報に近いものを選んでください(公開情報、社内の文書、顧客の情報、ソースコード、そのほか) |
| 困りごと | 会社の公式のAIではなく、そのAIを使う理由は何ですか |
| 要望 | 会社に用意してほしいAIや機能はありますか |
最後の2つの設問が、棚卸しのあとで一番役に立つ。公式外のAIを使う理由が「公式のAIに機能が足りない」なら、止めるより公式のAIを直すほうが早い。
棚卸しの結果を3つに分ける
見つかったAIは、私の見方では次の3つに分ける。
| 分け方 | 基準の例 | そのあとにやること |
|---|---|---|
| 公式に認める | 会社の契約に切り替えられ、入れるデータの扱いを確かめられる | 会社の契約に切り替え、学習に使わせない設定を確かめる |
| 条件を付けて認める | 公開情報だけを入れるなど、使い方を限れば問題が小さい | 入れてよい情報の範囲を規程に書き、周知する |
| 止める | 入れるデータが重く、設定を確かめられない | 止める理由と、代わりに使える公式のAIを示す |
入れてよい情報の線引きは生成AIと個人情報に、学習に使わせない設定は生成AIに学習させない設定に、規程の書き方は生成AIの社内利用規程の作り方にまとめた。
棚卸しは1回で終わらない。AIのサービスも、社員の使い方も変わり続ける。私は、最初の棚卸しで作った一覧を台帳として残し、少なくとも半年に1回は同じ設問とログで見直すことを勧める。
業務の現場に入ってAIを本番で動かす職種についてはFDEとは?に書いた。社内で使われているAIとつなぎ先を洗い出し、設定と権限を点検する診断はAI利用セキュリティ診断で紹介している。