CAIOは、Chief AI Officerの略だ。日本語では最高AI責任者と訳されることが多く、デジタル庁の資料ではAI統括責任者(CAIO)と書かれている。組織のAIの活用を進め、同時にそのリスクを管理する責任者を指す。
この肩書が急に増えた。IBMが2026年5月4日に発表したCEOの調査では、回答した組織の76%にCAIOがいて、1年前の26%から大きく増えた。調査は2026年2月から4月に、33の国・地域、21の業種の2,000人のCEOなどの経営層に行われたものだ。世界の大きな組織の経営者への調査なので、日本の企業全体の割合とは違う。それでも、AIの責任者を一人決める流れははっきりしている。
この記事は、CAIOの役割を、米国の連邦政府とデジタル庁の決まりから整理し、企業が置く前に決めることをまとめる。会社のAIの決めごとを回す委員会や窓口の作り方はAIガバナンスの体制づくりに書いたので、ここでは責任者の一人に絞る。
公的機関はCAIOに何を求めているか
CAIOの役割を文章で細かく決めているのは、今のところ企業より政府だ。米国と日本の決まりを並べると、CAIOに何を任せるかの目安になる。
米国:各省庁にCAIOを置く
米国の行政管理予算局(OMB)は、2025年4月3日の通達M-25-21で、各省庁の長に対し、通達から60日以内にCAIOを置くか、すでにいるCAIOを続けるよう求めた。CAIOは、ほかの幹部と連携しながら、AIの革新と導入とガバナンスを進める役とされている。
通達は、CAIOの仕事を10項目に分けて書いている。主なものを抜き出すとこうなる。
| CAIOの仕事(M-25-21の主なもの) | 企業に置き換えると |
|---|---|
| 組織全体で、責任あるAIの導入を進める | 全社のAI活用の旗を振る |
| AIの使い方が法令と政府の指針に沿うよう調整する | 法務・コンプライアンスとの調整 |
| 長官や幹部会議で、AIの上級の助言者になる | 経営会議での助言 |
| AIの使い道の一覧(AI Use Case Inventory)を管理する | 社内のAI利用の台帳 |
| 影響の大きいAIを見分け、性能を見続け、独立した審査を経させる | リスクの高い使い方の審査 |
| 職員がAIを使いこなせるよう、人材の変革について助言する | 人材の育成 |
| AIへの投資について長官と財務責任者に助言し、AIの支出を追う | 予算と費用の管理 |
右の列は、企業の仕事に置き換えた私の読み方だ。通達は、CAIOに必要な権限を持たせ、副長官クラスと定期的に話せる高さに置くことも求めている。大きな省庁では、副長官を議長、CAIOを副議長とするAIガバナンスの会議を、90日以内に作ることも求めた。
日本:各府省にAI統括責任者(CAIO)を置く
日本では、デジタル庁が2025年5月27日に「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」を策定した。その概要の資料によると、各府省に新たにAI統括責任者(CAIO)を置き、生成AIの利活用の把握と推進、ガバナンス、リスク管理を総括させる。
CAIOは、ガイドラインのひな形をもとに、職員に向けた生成AIの利活用のルールを作って周知する。生成AIのシステムの提供者や利用者は、リスクのある事案が起きたら各府省のCAIOに報告する。デジタル庁に置く先進的AI利活用アドバイザリーボードが報告を受け、必要に応じて再発の防止策を考える。
米国と日本に共通するのは、CAIOに「進める役」と「止める役」の両方を持たせていることだ。私の見方では、ここがCAIOの肩書のいちばん大事な点で、活用だけを任せる役なら、DXの推進の担当と変わらない。
CIO・CDO・CTOとの分け方
企業でCAIOを置こうとすると、すでにいるCIO(最高情報責任者)、CDO(最高デジタル責任者・最高データ責任者)、CTO(最高技術責任者)と、仕事がどう重なるかが問題になる。
M-25-21は、AIに十分な専門性がある場合に限り、CIO、CDO、CTOなど既存の幹部をCAIOに指名してよいとしている。新しい人を置くことが前提ではない。日本の企業の例では、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインの別添に、NECがAIガバナンス遂行責任者であるCDO(チーフデジタルオフィサー)を中心とした体制をとっている例が載っている。
私の見方では、分け方は次のように考えると決めやすい。
| 置き方 | 向いている会社 | 気をつけること |
|---|---|---|
| CIOが兼ねる | 社内の業務システムへのAIの組み込みが中心 | 情報システムの運用に時間を取られ、事業側のAI活用が後回しになりやすい |
| CDOが兼ねる | すでにDXやデータ活用の部署があり、AIをその延長で進める | データの基盤づくりとAIの使い道の審査は、要る力が違う |
| CTOが兼ねる | 自社の製品やサービスにAIを組み込む | 社内の業務でのAI利用と、リスクの審査が手薄になりやすい |
| 専任のCAIOを置く | AIの使い道が全社に広がり、審査と推進の量が多い | 権限と予算がないと、相談を受けるだけの役になる |
AI事業者ガイドラインは、各主体においてアカウンタビリティを果たす責任者を設定することを求め、経営層の責任は大きく、リーダーシップを発揮することが重要だとしている。別添の実践例には、AIガバナンス担当役員を決め、その下に委員会を置く会社も出てくる。肩書がCAIOでなくても、この役を誰が担うかが決まっていればよい。
CAIOを置く前に決める4つのこと
肩書を先に作ると、「AIのことはCAIOに聞いて」という窓口だけができ、決める権限のない役になりやすい。私の見方では、置く前に次の4つを決めておく。
| # | 決めること | 決め方の例 |
|---|---|---|
| 1 | 任せる範囲。推進だけか、リスクの審査も持つか | 両方を持たせ、審査で止める権限を書く。止められない役は審査役にならない |
| 2 | 使える予算 | AIの道具の契約と、試しに作る費用の枠を、CAIOの判断で使えるようにする |
| 3 | 報告先 | 社長か取締役会に直接報告する。米国の通達が副長官クラスとの対話を求めたのと同じ理由だ |
| 4 | 成果の測り方 | 「使っている人の数」ではなく、業務の数字が動いた件数と、審査した使い道の数で見る |
1の「止める権限」は、社内の利用ルールに書いておくと効く。利用ルールの作り方は生成AIの社内利用規程の作り方にまとめた。4の成果の測り方は、AIの投資をどう判断するかの話とつながる。
もう一つ、CAIOが一人で全部を見ることはできない。米国の通達がCAIOの仕事の一つに「AIの使い道の一覧の管理」を入れているように、まず社内で何がどう使われているかを把握するところから始まる。その手順はシャドーAIの見つけ方に書いた。
CAIOと、現場で動かす人は別に要る
CAIOは、決める人であって、作る人ではない。使い道を選び、審査し、予算をつけても、現場の業務にAIを組み込んで動かす人がいなければ、AIは本番で使われない。
私の見方では、CAIOを置いた会社が次につまずくのは、ここだ。AIの使い道の一覧はできたが、どれも試作のまま止まっている。経営会議でAIの話は増えたが、業務の数字は変わらない。その間を埋めるのが、現場に入って業務の中でAIを作り、使われるまで直す役だ。この役を担う職種としてのFDEはFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容に、試作が本番に進まない理由はAIのPoC止まりを抜け出すに書いた。
CAIOを置く会社は、決める役と動かす役を一緒に設計しておくとよい。社内で現場の実装を担う人を育てるか、外から入れるかの考え方と、私たちの支援の中身はサービスのページに書いた。