AI顧問は、社外の専門家が、月ごとなどの決まった期間、会社のAIの活用について相談に乗り、助言する形の支援だ。AIアドバイザーと呼ばれることもある。決まった定義はなく、会社によって頼める範囲は大きく違う。
AIの道具は毎月のように変わる。社内に詳しい人がいないまま、どの道具を契約するか、社内のルールをどうするか、どの業務から試すかを決めるのは難しい。そこで、判断を手伝う人を外から迎える。これがAI顧問の考え方だ。
この記事は、AI顧問に頼めることと頼めないこと、契約の形、選ぶときに確かめる点を整理する。プロジェクト単位でAIの導入を頼む形についてはAIコンサルの選び方に、現場に入って一緒に進める形についてはAIの伴走支援とはに書いたので、ここでは月ごとに相談する形に絞る。
AI顧問に頼めること、頼めないこと
AI顧問の仕事は、作ることより決めることを手伝うことだ。私の見方では、頼めることは次の5つにまとまる。
| 頼めること | 具体的な中身 |
|---|---|
| 道具の選び方の相談 | どの生成AIのサービスを、どの契約の形で入れるか |
| 社内ルールの見直し | 利用規程の案を読み、抜けている点を指摘する |
| 試す業務の選び方 | どの業務から試すと効果が見えやすいか |
| 提案や見積もりの読み合わせ | 開発会社やコンサルの提案が妥当かを一緒に読む |
| 経営会議での説明 | AIの動きと自社への影響を経営陣に説明する |
逆に、AI顧問だけでは進まないこともある。
| 頼みにくいこと | 理由 |
|---|---|
| AIの仕組みを作って動かす | 月に数回の相談では、作る時間が足りない |
| 現場の業務に入り込んで直す | 業務の細部は、現場にいないと分からない |
| 決めたことを社内に浸透させる | 社内の人が動かないと、助言は紙のまま残る |
私の見方では、AI顧問を入れても何も変わらない原因になりやすいのは、この2つの表の境目をはっきりさせないまま契約することだ。助言をもらう相手なのか、手を動かしてもらう相手なのかを、契約の前に決めておく。社内のルールづくりの中身は生成AIの社内利用規程の作り方に書いた。
AI顧問の契約の形
民法から見た顧問の契約
民法が定める契約の種類に「顧問契約」という名前はない。法律行為でない事務を任せる契約は準委任と呼ばれ、民法第656条で委任の規定が準用される。相談に乗り助言するという事務を任せるAI顧問の契約なら、この準委任の規定が当てはまると考えられる。ただし、契約の名前ではなく中身で決まるので、成果物の完成を約束させる条項が入っていれば請負に近くなる。迷うときは、契約書を弁護士に確認してもらうのが確実だ。
準委任に当てはまる場合、民法の次の規定が関わる。
| 民法の規定 | 中身 | AI顧問の契約で確かめること |
|---|---|---|
| 第644条(受任者の注意義務) | 受任者は、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う | 助言の質をどこまで求めるか、責任の範囲 |
| 第648条(受任者の報酬) | 特約がなければ報酬を請求できない。報酬を受ける場合は、原則として事務を履行した後に請求する | 月額か時間単位か、前払いか後払いか |
| 第648条の2(成果等に対する報酬) | 成果に対して報酬を払う約束もできる | 成果に応じて払う部分を入れるか |
| 第651条(委任の解除) | 各当事者はいつでも解除できる。相手に不利な時期の解除などは損害を賠償する | 解約の予告の期間 |
右の列は私の整理だ。とくに第651条は見落としやすい。民法の上ではいつでも解除できるので、契約では、何か月前に伝えれば解約できるかを決めておくとよい。
個人の専門家に頼むときのフリーランス法
AI顧問を、会社ではなく個人の専門家に頼むこともある。2024年11月1日に、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)が施行された。発注する事業者は、フリーランスに業務を委託したら、直ちに取引の条件を書面か電磁的な方法で明示する必要がある。口頭やチャットのやり取りだけで顧問を頼むのは避け、業務の範囲、報酬の額、支払い期日を書いて渡しておく。
契約の前に決めておくこと
契約書の条項とは別に、私の見方では、次の4つを先に決めておくと後でもめにくい。
- 月に使える時間と、相談の方法(定例の会議か、チャットでの随時の相談か)
- 社内のどの資料まで見せるか。秘密保持の範囲と、AIの道具に入れてよい情報の決まり
- 顧問の助言を受けて、社内で誰が決めるか
- 何をもって続けるか、やめるかを判断するか
2の情報の扱いは、AIの道具とデータの契約にも関わる。経済産業省は2025年2月18日に「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を公表し、提供するデータの利用範囲や、サービスの水準、AI生成物の利用条件を検討できるようにするための資料としている。顧問と一緒にこのチェックリストを読むのも、使い方の一つだ。
AI顧問の選び方と、ほかの相談先
選ぶときに確かめる点
AI顧問は、肩書や経歴だけでは比べにくい。私の見方では、次の点を面談で確かめるとよい。
| 確かめる点 | 聞き方の例 |
|---|---|
| 自社の業種や業務に近い話ができるか | 「うちの業務なら、どこから試しますか」と聞いて答えを比べる |
| 道具の名前でなく、業務の話から始めるか | 最初の質問が道具の話だけなら注意する |
| できないことを言えるか | 「顧問の範囲では手伝えないこと」を聞く |
| 手を動かす段になったら、どうつなぐか | 実装が要るとき、誰がどう作るかの考えを聞く |
| 情報の扱いの決まりを持っているか | 預かった資料をAIの道具に入れるかどうかを聞く |
費用の考え方
私が調べた範囲では、AI顧問の費用の相場を示す公的な統計は見つからなかった。月に使える時間、会議に出るだけか資料まで作るか、社内の人向けの勉強会まで含むかで、費用は大きく変わる。複数の候補を比べるときは、月額の金額より、月に使える時間と頼める範囲をそろえて比べる方が、違いが見える。
無料の公的な相談先
中小企業・小規模事業者なら、顧問を雇う前に公的な相談先を使う手もある。よろず支援拠点は、国が47都道府県に置いている経営の相談所で、経営のあらゆる相談に何度でも無料で応じるとしている。AIを入れるかどうか以前の、業務の整理から相談したい場合に向いている。
また、AIの責任者を社内に置いて体制を作る場合は、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)が2026年3月17日に公開した「Chief AI Officerガイド」が、民間の事業者がCAIO(最高AI責任者)を置いて運用するときの実務の指針として使える。社内の責任者と社外の顧問の分担は、CAIO(最高AI責任者)とはの考え方とあわせて決めるとよい。
顧問の助言を、現場の実装につなぐ
AI顧問は、判断を速くしてくれる。ただし、判断のあとに業務の中でAIを作り、使われるまで直す人がいなければ、助言は会議の記録のまま残る。私の見方では、AI顧問を入れる会社は、手を動かす人をどこから連れてくるかも同時に考えておくべきだ。
その手を動かす役を担う職種としてのFDEはFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容に、外部のAIエンジニアを使うときの契約の形の違いはAI人材の派遣とFDEの違いにまとめた。私たちが提供している支援の中身はサービスのページに書いた。