生成AIを使う日本企業は、もう少数派ではない。総務省の令和8年版情報通信白書によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本企業は86.4%に達した。それでも「入れたのに業務が変わらない」という声は消えない。
私の見方では、AI導入の失敗は、ツールが動かないことより、入れたAIが業務の数字につながらないことで起きる。ここでは、白書の日本企業の調査結果を米国・ドイツ・中国と比べながら、失敗の理由を5つに分け、それぞれの打ち手と、定着を測る指標をまとめた。
PoCが本番に進まない問題はAIのPoC止まりを抜け出すで扱った。この記事は、導入したあとに定着しない問題を中心に扱う。業務の現場に入ってAIを定着させる職種についてはFDEとは?に書いた。
AI導入の「失敗」は3つの形で現れる
「失敗」と一口に言っても、止まる場所は違う。私の整理では、次の3つに分かれる。どこで止まっているかによって、打ち手も変わる。
| 形 | 何が起きているか | よくある兆候 |
|---|---|---|
| 入らない | 使う方針が決まらず、試すだけで終わる | 部署ごとに別々のツールを試している。全社の方針がない |
| 入ったが使われない | ツールは配ったが、一部の人しか使わない | 利用者数が最初の月から増えない。使い方を聞かれる窓口がない |
| 使われているが成果が出ない | 毎日使われているが、業務の数字が動かない | 「便利になった」という声はあるが、工数も売上も変わっていない |
3つ目がいちばん気づきにくい。利用者が多いと、導入はうまくいったように見えるからだ。
数字で見る日本企業の現在地
白書は、2025年度企業向け調査として、日本・米国・ドイツ・中国の企業に同じ質問をしている。日本の主な結果は次の通りだ。
| 項目 | 日本の結果 | 他の3か国との比較 |
|---|---|---|
| 生成AIを活用する方針 | 「積極的に活用する」「領域を限定して利用する」の合計が68.9%(2024年度調査は49.7%) | 米国・ドイツ・中国より引き続き低い |
| 生成AIの利用 | 何らかの業務で利用している割合は86.4% | 2024年度調査から大幅に上昇し、差が縮まった |
| 組織的な取組 | 組織的に取り組んでいる割合は65.6%。「組織的な取組はない」は27.0% | 「組織的な取組はない」は米国・ドイツ・中国に比べて顕著に高い |
| 生じうる影響 | 「業務の効率化」が61.6%で最も高い。「製品・サービスの質の向上」は32.2%、「人員不足の解消」は26.8% | 他の3か国は「製品・サービスの質の向上」が最も高い |
| リスク対策 | 「全社的な指針やガイドラインを整備している」が41.1%で最も高い | 他の3か国は、導入段階の専門的な審査体制や、導入後の定期的な評価・検証が日本より高い |
企業規模で見ると、活用する方針だと答えた割合は大企業で74.0%、中小企業で58.1%だった。
この表から読み取れるのは、「使っている」と「業務が変わった」の間に距離があることだ。利用率は他国との差が縮まったが、組織としての取り組みや、使った結果を評価する仕組みでは差が残っている。
失敗する5つの理由
私の見方では、導入したAIが定着しない理由は、次の5つにまとめられる。白書の結果と照らし合わせながら見ていく。
1. 目的が「効率化」だけになっている
生成AIの活用で生じうる影響を尋ねた質問で、日本企業は業務の効率化を61.6%と突出して多く挙げた。効率化は大事だが、それだけを目的にすると、AIは「今の業務を少し速くする道具」にとどまる。白書は、日本では生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方、他の3か国では製品・サービスの質の向上や生産性向上といった文脈で捉えられている可能性があると述べている。
効率化だけを目的にすると、成果を測る数字もあいまいになる。「何分速くなったか」は測りにくく、誰も測らないまま「便利になった」で終わる。
2. 責任者と目標が決まっていない
白書によると、他の3か国では「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」「取組を推進する部署や責任者が明確になっている」という回答が目立った。日本では「経営戦略のなかでAI活用の目的や方針が明示されている」が最も多かった。
方針が書いてあることと、誰がどの数字に責任を持つかが決まっていることは違う。責任者のいない導入は、ツールの契約更新の時期になって初めて「効果は何だったか」が問われる。
3. 社内のデータにつながっていない
白書では、他の3か国で「生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている」と答えた割合が5割を超え、日本より大幅に高かった。
社内の文書やデータにつながっていない生成AIは、一般的な質問には答えられても、自社の業務の質問には答えられない。日本での用途が議事録・メール作成補助(約7割)に集まっているのは、社内のデータが要らない用途だからだと私は見ている。社内データにつなぐ方法はRAG構築の進め方にまとめた。
4. ルールはあるが、評価がない
日本企業のリスク対策で最も多いのは、全社的な指針やガイドラインの整備(41.1%)だった。一方で他の3か国は、導入段階の専門的な審査体制や、導入後の定期的な評価・検証が日本より高かった。
ルールは「やってはいけないこと」を決めるが、「うまくいっているか」は教えてくれない。導入したAIの出力の質や業務への効果を定期的に確かめる仕組みがないと、使われなくなっても誰も気づかない。
5. 人材を外に求め、現場に任せていない
IPAの「DX動向2025」では、DXを推進する人材の量が不足していると答えた日本企業は85.1%だった。人が足りないと、外部の専門家やツールに任せたくなる。しかし、業務を一番知っているのは現場だ。現場の担当者がAIを使って自分の仕事を変える経験をしない限り、外から持ち込んだ仕組みは定着しない。育成の進め方はAI人材の育成に書いた。
AIを定着させるための打ち手
5つの理由に対する打ち手を、最初の一歩と合わせて並べた。表は私の整理だ。
| 理由 | 打ち手 | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| 目的が効率化だけ | 業務の数字を1つ決めて目的にする | 対象の業務で、今いちばん困っている数字を書き出す |
| 責任者と目標がない | その数字に責任を持つ人を、現場の責任者から選ぶ | 経営幹部が、部署ごとに目標と期限を示す |
| 社内データにつながっていない | 対象業務に必要な文書とデータだけを先につなぐ | 業務で毎日参照している資料の置き場所と権限を棚卸しする |
| ルールはあるが評価がない | 出力の質と業務の数字を、決まった周期で確かめる | 評価に使う質問と正解の例を集め、月に1回見る日を決める |
| 現場に任せていない | 現場の担当者と外部の専門家が同じ業務を一緒に作る | 最初の業務の担当者を1人決め、作る工程に入ってもらう |
順番も大事だ。私の見方では、ツールや研修を選ぶ前に、上の2行(目的の数字と責任者)を決める。ここが決まらないまま始めると、残りの3つも決めようがない。目的をKPIで置く考え方はKPI駆動のAI導入にまとめた。
AIの定着をどう測るか
定着したかどうかは、利用者数だけでは分からない。私は、次の3段で見るのがよいと考えている。
| 段 | 見る指標の例 | 分かること |
|---|---|---|
| 使われているか | 対象業務の担当者のうち、週に1回以上使っている人の割合 | 入ったが使われない状態かどうか |
| 業務に入っているか | 対象業務の件数のうち、AIを通った件数の割合 | 個人の便利ツールにとどまっていないか |
| 数字が動いたか | 最初に決めた業務の数字(処理時間、件数、売上など)の変化 | 使われているが成果が出ない状態かどうか |
上の段だけを追うと、3つ目の失敗の形を見逃す。最初に決めた業務の数字まで追って、初めて「定着した」と言える。
中小企業の場合
白書によると、「組織的な取組はない」と答えた割合は、中小企業で特に高かった。一方で、中小企業では「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」が最も高い回答割合となり、白書は中小企業のAI活用ではトップダウンの関与がキーポイントになっているとしている。
私の見方では、中小企業は人数が少ない分、経営者が目標を示せば決まるのも速い。5つの理由のうち、上の2つ(目的と責任者)を経営者が自分で決めれば、残りは小さく試しながら進められる。
導入したAIが定着しない、どこで止まっているか分からないという場合は、まず上の3つの形のどれに当たるかを見てほしい。私たちが業務の現場に入って進める支援の中身はサービス詳細に書いた。