AIで業務効率化を進めたい会社は多い。ただ、ツールを配ったあとに「何の業務に使えばいいのか」「効果があったのか分からない」で止まる例も多い。私の見方では、止まる理由の多くは、どの業務から始めるかと、どこまで進めるかを先に決めていないことにある。
この記事は、AIで業務効率化を進める側の手順をまとめる。データは総務省の令和8年版情報通信白書を使った。業務の流れの描き方はAI×人間の業務ワークフロー設計術に、入れたAIが使われなくなる理由はAI導入が失敗する理由に書いたので、ここでは「最初の業務の選び方」と「進める順番」に絞る。
日本企業はAIを何に使っているか
令和8年版情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本企業は86.4%だった。2024年度の調査から大幅に上がっている。
使い道は偏っている。業務の類型ごとに見ると、「議事録・メール作成補助」での活用が約7割で最も高く、「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続いた。導入の効果を実感すると答えた割合も、「議事録・メール作成補助」が約7割で、他の類型より目立って高い。
期待しているのも効率化だ。生成AIの活用で生じうる影響を尋ねた設問では、日本は「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が61.6%で最も高く、「製品・サービスの質の向上」の32.2%、「人員不足の解消」の26.8%を大きく上回った。白書は、日本では生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方、他の3か国はもう一歩踏み込んで捉えている可能性がある、と書いている。
一方で、会社として取り組めているとは限らない。生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた日本企業は27.0%で、米国・ドイツ・中国より目立って高く、中小企業で特に高い傾向があった。
私の見方では、この結果は「使い始めた人は多いが、会社の業務の流れはまだ変わっていない」と読める。業務効率化を進めるとは、この差を埋めることだ。
業務効率化には2つの段階がある
白書は、AIの導入で効果を出す流れを段階として示している。まず、導入しやすい汎用のAIを社員の個人作業で使うことを組織として広め、AIの特性と使える業務への理解を社内で深める。そのうえで、人間とAIの協業の形を決め、業務プロセス全体をAI前提で変えていく、という順番だ。
この2つは、決めることも、かかる手間も違う。私は次のように分けて考えている。
| 段階 | やること | 主にかかるもの | 社内で決めること |
|---|---|---|---|
| 1. 個人の作業を速くする | 汎用のAIツールを安全に使える環境を作り、使い方を広める | ツールの利用料、ルール作り、使い方の共有 | 使ってよい情報と使ってはいけない情報、相談先 |
| 2. 業務の流れを作り直す | 人とAIの役割分担を決め、社内のシステムやデータとつなぐ | 設計と実装の手間、データの整備、運用 | どの業務を変えるか、誰が結果に責任を持つか |
表は白書の段階をもとにした私の整理だ。段階1だけでも作業時間は減る。ただ、会社の数字が大きく動くのは段階2に入ってからだと私は考えている。段階1は段階2の準備でもあり、社員がAIで何ができて何ができないかを知っていると、段階2で業務を選ぶ議論が早く進む。
段階1で止まりやすい理由
白書は、汎用のAIツールを入れても一部の積極的な社員だけが使い、全社的な活用と効果につながらない可能性を指摘している。ヒアリングを受けた先進的な企業は、使い方の例を集めて社内に広める、定期的にワークショップを開く、といった後押しで会社全体に浸透させたという。
例として白書が紹介しているのが日清食品グループだ。生成AIの効果を見込める業務を部門ごとに選び、プロンプトのひな形を作り、効果を測る取り組みを少しずつ広げた結果、社内の生成AIの利用率は直近で7割超に届いているという。ツールを配ることより、業務を選んでひな形を用意し、効果を測ることに手をかけている点が参考になる。
最初の業務を選ぶ5つの見方
どの業務から始めるかで、その後の進みやすさが決まる。私の見方では、次の5つで候補を見比べるとよい。
| 見方 | 当てはまりやすい例 | 当てはまりにくい例 |
|---|---|---|
| 回数と量が多い | 毎日のメール、毎週の議事録、問い合わせへの一次回答 | 年に数回の計画づくり |
| 入力と出力が文字 | 文書の下書き、要約、分類、転記 | 現物の確認が要る作業 |
| 間違いを人が確かめられる | 担当者が送る前に読む下書き | そのまま顧客に届く回答 |
| 手順がある程度決まっている | 定型の申請、決まった形式の報告書 | 毎回やり方が違う交渉 |
| 効果を数字で測れる | 1件あたりの処理時間、やり直しの回数 | 「なんとなく楽になった」しか言えない仕事 |
表の例は説明のためのもので、どの会社にも当てはまるわけではない。5つすべてに当てはまる業務は少ないので、私の見方では、上の3つを満たすものを最初の候補にするとよい。白書で議事録とメールの作成補助に活用と効果の実感が集まっているのも、この3つに当てはまりやすいからだと私は見ている。
逆に、最初に選ばない方がよいのは、間違いがそのまま外に出る業務と、判断の責任が重い業務だ。白書も、生成AIには事実と異なる情報を出すハルシネーションや、利用者に過剰に同調するシカファンシーといった現象があると書いている。こうした業務は、段階2で人が確かめる工程を設計してから扱う。
AIで業務効率化を進める6つの手順
1. 業務を書き出す
部署ごとに、繰り返している業務を書き出す。名前だけでなく、1回にかかる時間と、月に何回あるかも書く。ここで時間を測っておかないと、あとで効果を比べられない。
2. 5つの見方で候補を選ぶ
書き出した業務を、上の5つの見方で見比べ、最初の候補を1〜3個に絞る。最初から多くを選ぶと、効果を測る手間が増えて、どれが効いたのか分からなくなる。
3. 使ってよい情報と環境を決める
社員が個人の判断でAIを使うと、入力した機密情報が外に出るおそれがある。白書も、情報漏えいの対策をした活用環境を社内に用意し、利用時のルールやガイドラインを整えて周知することで、個人の作業に安全に使えるようになると書いている。ルールの作り方は生成AIの社内利用規程の作り方にまとめた。
4. ひな形を作って小さく試す
選んだ業務ごとに、入力の例と、AIへの指示のひな形を用意する。数人で数週間使い、手順1と同じ測り方で時間とやり直しの回数を比べる。うまくいかなかった業務は、ひな形を直すか、候補から外す。
5. 効果を数字で残して広める
効果が出た業務は、ひな形と数字をセットで社内に共有する。数字があると、他の部署も自分の業務に置き換えて考えやすい。費用と効果の比べ方はAI投資のROIの出し方に書いた。
6. 業務の流れごと作り直す
個人の作業で効果が見えたら、段階2に進む。白書は、業務領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極め、「どのタスクはAIを人間の思考や判断の補助として用い、どのタスクはAIに自律的に実行させるべきか」を検討して、業務プロセス全体を設計する必要があると書いている。社内のシステムやデータとAIをつなぐなら、投資の判断を含めて組織として取り組むことになる。
段階2で詰まりやすいところ
段階2では、AIの性能より、データと役割分担で詰まることが多いと私は見ている。
1つ目はデータだ。白書は、国立情報学研究所の佐藤一郎教授の「AIに対応するデータがあるかどうか、つまり「AI-Ready」化が出来ているかどうか」が成功の最初のステップだという指摘を紹介している。AIに読ませたい文書が紙のまま、あるいは担当者の手元に散らばったままなら、まずそこを整える必要がある。
2つ目はアクセスの範囲だ。社内のデータとAIをつなぐと、部署や役職によって見てはいけない情報をAIが答えてしまうおそれが出る。白書によると、先進的な企業でも、AIが参照するデータの範囲を絞るといった対策をとっている。
3つ目は、誰が結果に責任を持つかだ。AIが下書きを作り、人が確かめて送る、という形なら責任は人に残る。AIが自分で処理まで進める形にするなら、どこで人が止められるかを先に決めておく。私の見方では、この線引きを現場の責任者と一緒に決めない限り、段階2の業務は本番で使われない。
外部に頼むときの考え方
段階1は、ツールの選定とルール作り、使い方の共有が中心だ。私の見方では、ここは社内で進められる。段階2は、業務の流れを描き直し、システムをつなぎ、使われるまで直す仕事になる。外部の手を借りる意味が大きいのはここだと私は考えている。
頼む相手を選ぶときは、提案書の良し悪しより、現場に入って業務の流れを作り直し、本番で使われるところまで付き合うかを確かめるとよい。こうした役割は、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる職種の仕事と重なる。FDEという職種はFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容に、FDEを掲げる会社の選び方はFDE支援会社の選び方にまとめた。私たちが提供している支援の中身と料金はサービスのページに書いた。