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ai導入aiツール組織論

AI業務効率化の事例|白書に載った国内企業の例と始める順番

AI業務効率化の事例を、総務省の令和8年版情報通信白書に載った国内企業の例から集めた。個人の作業・現場の手順・業務の流れの3つの型に分け、中小企業の例の進め方と、事例を自社に当てはめる順番をまとめた。

AIで業務効率化を進めたい担当者が、まず他社の事例を探すのは自然なことだ。ただ、検索で見つかる事例の多くは製品の導入事例で、どこまでが実際に動いている話で、どこからが構想なのかが分かりにくい。

ここでは、総務省の令和8年版情報通信白書が「日本企業におけるAI活用事例」として載せている国内企業の例を集め、業務効率化の型ごとに整理する。白書は公的な資料で、各事例に元の発表や報道の出典がついている。そのうえで、中小企業の例の進め方を詳しく読み、事例を自社に当てはめる順番を書く。業務の選び方と手順そのものはAIで業務効率化を進める手順に、中小企業の始め方は中小企業のAI導入に書いた。

白書に載っている国内の事例

白書は、企業活動の業務領域ごとに先進的なAI活用の事例を挙げている。白書自身が、調査期間や紙幅の事情から全ての事例を網羅的に記述することは困難だと断っている。つまり、これは国内の事例の一覧ではなく、白書が選んだ例だ。

業務効率化に近いものを抜き出すと、次のようになる。

会社対象の業務白書に書かれている中身白書での書かれ方
日清食品グループ全社の事務作業部門ごとに対象業務を選び、プロンプトのひな形と効果測定を少しずつ社内に広げた。社内の生成AI利用率は直近で7割超に届いているという社内に広げた結果
中外製薬全社員の日常業務約7,800名の社員向けに内製した生成AIアプリ「Chugai AI Assistant」に、平均約5,400人のユニークユーザがいるという社内で利用中
明治安田生命営業の面談記録AIを使った「デジタル秘書」をほぼ全従業員に提供し、面談記録の作成やデータの蓄積を支援している提供中。提案書の作成などは構想
イオンリテール店舗の従業員の問い合わせマニュアルを学習させた端末「AIアシスタント」を一部の店舗で導入した。免税対応、商品の配送、落とし物の管理などに答え、音声入力にも対応する一部の店舗で導入
ダイキン工業工場の設備の故障対応日立製作所と共同で「故障診断AIエージェント」を開発・導入した。設備図面や過去の保全記録をナレッジグラフとして取り込み、異常が故障かどうかと、原因や対策を示す開発・導入
伊藤忠テクノソリューションズシステム開発の要件定義ROUTE06が開発した「Acsim」を提供している。従来1か月以上かかっていた要件定義のプロトタイピングを1時間に短縮できるという製品としての提供
ラクス経費精算領収書を選ぶだけで精算データを作り、明細の紐づけや勘定科目の入力も自動にする経費精算の仕組みを提供している製品としての提供
アイニコグループ10事業部の業務各事業部から募った社員が1年間のプロジェクトで業務課題に取り組み、合計で年間2,247時間の業務時間削減が報告されたという会社からの報告

右端の列は私が足したものだ。同じ「事例」でも、社内で使われている話、製品として売られている話、会社が報告した成果の話が混ざっている。私の見方では、事例を読むときはまずこの区別をつけると、自社に持ち帰れる部分が見えやすくなる。

事例を3つの型に分けて読む

上の事例は、AIが減らす作業の範囲で3つの型に分けられる。分け方は私の整理だ。

型AIが減らす作業白書の例社内で決めること
個人の作業一人ひとりが書く・調べる・まとめる時間日清食品グループ、中外製薬、明治安田生命使ってよい情報、使える環境、ひな形
現場の手順現場の人が手順書や記録を探して判断する時間イオンリテール、ダイキン工業元にする文書、答えられないときの扱い、現場の確認
業務の流れ複数の人と工程をまたぐ受け渡しの時間伊藤忠テクノソリューションズ、ラクスどの工程をAIに任せ、どこで人が確かめるか

個人の作業

いちばん始めやすく、件数も多い型だ。白書の企業向け調査でも、日本企業が生成AIを使っている業務は「議事録・メール作成補助」が約7割で最も多かった。日清食品グループの例で私が注目するのは、ツールを配っただけで終わらせず、部門ごとに対象業務を選び、プロンプトのひな形を作り、効果を測る取組を少しずつ広げた点だ。白書は、汎用的なAIツールを入れても一部の積極的な社員だけが使い、全社的な活用に至らない可能性もあると書いている。

現場の手順

イオンリテールとダイキン工業の例は、現場の人が手順書や過去の記録を探す時間を減らすものだ。どちらも、会社に溜まっている文書(マニュアル、設備図面、保全記録)を元にしている。私の見方では、この型は元にする文書の整い具合で効果がほぼ決まる。文書が古い、部署ごとに書き方が違う、といった状態のままだと、AIの答えも揃わない。

業務の流れ

伊藤忠テクノソリューションズとラクスの例は、要件定義や経費精算という、複数の人がかかわる工程そのものを短くしようとするものだ。白書が先進事例として取り上げた中外製薬は、ビジネスプロセスの変革は個人作業の効率化とは違い、人間とAIの役割分担を十分に検討したうえで進めるべきだとしている。AIに任せる工程と、人間が責任を取る工程を見極め、人の判断や確認を挟む「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を重視するという。この型は、社内のシステムやデータとつなぐ作業が入るので、個人の作業の型より準備に時間がかかる。進め方はAIエージェント導入の進め方に書いた。

中小企業の例:アイニコグループの進め方

白書は個別のヒアリングとして2社を詳しく取り上げている。大企業の中外製薬と、中小企業のアイニコグループだ。中小企業でAI導入の事例を探している担当者には、後者の進め方がいちばん参考になると私は考えている。

アイニコグループは、奈良県や京都府南部を中心に、注文住宅、リフォーム、介護、保育などを手がける会社だ。白書によれば、もともとChatGPTなどのAIツールは社内に入っていたが、個人の利用に留まり、業務全体にどう広げるかが課題だったという。そこから次の順に進めている。

時期やったこと
最初専門の支援業者と連携し、全社員向けの勉強会を開いた。業務の話より、親しみやすい物語を題材にAIとやりとりする体験から入った
プロジェクト開始挑戦したい社員を各部署から募り、全10事業部から2名程度、計21名が参加した。各事業部の課題から、AIで解決したい課題と目標を決めた
1年間週1回1時間程度の勉強会で進み具合を確かめ、専門家が助言した。3か月、6か月、12か月に成果を共有する区切りを置いた
12か月目最終報告会で、全10事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告された
その後勉強会を月1回で続け、2026年4月からは各部門からAI活用の専任スタッフを選ぶ予定としている

削減時間の内訳として、白書は3つの例を挙げている。

部門やったこと年間の削減時間
広報部門複数の社内業務を自動化880時間
介護事業部門利用者の送迎ルートの最適化システムを作成するなど170時間
不動産事業部門問合せ対応のテンプレート化・自動化897時間

この数字は会社から白書に提供されたもので、第三者が測ったものではない。それでも、進め方として読める点は多い。私が持ち帰れると考えるのは次の3つだ。

  1. 参加者を、各事業部から手を挙げた人にしている。通常の業務と並行して取り組んだうえで、全ての事業部で効果が出たという
  2. 課題を事業部の側から出させ、目標と測り方を先に決めている。削減時間を部門ごとに足し上げられたのはそのためだと私は見ている
  3. ルールを最低限に絞っている。個人情報を入力しない、オプトアウトの設定をする、といったことを周知し、過度な恐れで使われなくなることを避ける方針だという

白書は、成果につながった要因として、業務フローやチェックシートを整え、手順を動画にするといった仕組みづくりが社内に根付いていたことも挙げている。現場の手順の型と同じく、元になる業務の整理が先にあったということだ。

事例を自社に当てはめる順番

事例を集めたあと、自社で何から始めるか。白書の例をもとにした私の見方では、次の順番がよい。

#やること事例から読み取れること
1事例を3つの型に分け、自社でいちばん時間を取っている作業がどの型かを決める型によって社内で決めることが違う
2型に合った業務を1つの部署で1つ選び、今かかっている時間を測っておくアイニコグループは事業部ごとに課題と目標を決めてから始めた
3入れてよい情報と、使ってよいツールを決めるアイニコグループは最低限のルールに絞って周知した
4ひな形を作り、参加者を募って小さく試す日清食品グループはひな形と効果測定を少しずつ広げた
53か月ごとに数字を共有する区切りを置くアイニコグループは3か月、6か月、12か月に区切りを置いた
6業務の流れの型に進むかを判断する中外製薬は人間とAIの役割分担を検討してから業務の流れを変えるとしている

1から5までは、個人の作業と現場の手順の型の範囲で、社内の人で進められることが多い。6の業務の流れの型に入ると、社内のシステムとの接続、どこで人が確認するかの設計、本番での運用が必要になる。私の見方では、試験で効果が出たのに本番に入らない、という止まり方はここで起きやすい。その止まり方と抜け方はAIのPoC止まりを抜け出すに書いた。

外部に頼むなら、どこを頼むか

アイニコグループの例で興味深いのは、専門家の支援が特に有効だった場面を2つに絞って話している点だ。1つは課題を決めるときに「その課題はAIで解決すべきかどうか」を判断すること、もう1つはプロジェクトが動き出したあとで「このやり方ではうまくいかない」と相談できることだという。プロジェクトの後も、困りごとが生じれば支援業者に都度相談できる環境を続けている。

私の見方では、外部に頼む範囲を決めるときも、この2つから考えると決めやすい。個人の作業の型は、ルールとひな形さえ決まれば社内で回せることが多い。外部の手が要るのは、どの業務をAIで解くかの見極めと、業務の流れの型に入ってから社内のシステムにつなぎ、本番で動かすところだ。後者を現場に入り込んで実装まで担う役割は、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれている。FDEが何をする職種かはFDEとはに書いた。

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