社内でAIを使っている人は、もう珍しくない。総務省の令和8年版情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本企業は86.4%だった。一方で、生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた日本企業は27.0%で、米国・ドイツ・中国より目立って高かった。
使っている人はいるが、会社として進めているとは限らない。私の見方では、社内AI導入とは、この差を埋めるために、会社として決めるべきことを決める仕事だ。そして決めることは、最初の3か月でほぼ出そろう。この記事はその6つと、月ごとの進め方をまとめる。
どの業務から手をつけるかの細かい選び方はAIで業務効率化を進める手順に、入れたAIが使われなくなる理由はAI導入が失敗する理由に書いた。ここでは、それより手前の「社内で何を決めるか」を扱う。
AI導入のメリットはどこに出るか
先に、何のために入れるかをそろえておく。白書で生成AIの活用で生じうる影響を尋ねた設問では、日本企業は「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が61.6%で最も高く、「製品・サービスの質の向上」の32.2%、「人員不足の解消」の26.8%を大きく上回った。白書は、日本では生成AIが業務効率化の文脈で捉えられている一方で、他の3か国はもう一歩踏み込んで捉えている可能性があると書いている。
私はAI導入のメリットを、次の3つの段で考えている。
| 段 | メリット | 出るまでに要るもの |
|---|---|---|
| 個人の作業 | 文書の下書き、要約、調べものの時間が減る | 安全に使える環境と利用ルール |
| 業務の流れ | 申請・問い合わせ・報告など、部署の仕事の手数が減る | 人とAIの役割分担の設計、社内データとのつなぎ込み |
| 製品・サービス | 顧客に届く品質や速さが変わる | 業務の流れの変更と、結果に責任を持つ人 |
表は私の整理だ。個人の作業のメリットは、ツールを配れば比較的早く出る。業務の流れから先は、会社として決めることが増える。最初の3か月で決める6つのことは、この2段目と3段目に進むための土台だと私は考えている。
最初の3か月で決める6つのこと
| # | 決めること | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 1 | 責任者 | 部署ごとにばらばらに進み、誰も止めも進めもしない |
| 2 | 使ってよい情報とツール | 社員が個人の判断で使い、機密情報の扱いが人によって変わる |
| 3 | 利用状況を把握する仕組み | どこで何に使っているか分からず、リスクも効果も数えられない |
| 4 | 最初に変える業務 | 「何に使えばいいか」で止まる |
| 5 | 効果の測り方 | 続けるか止めるかを判断できない |
| 6 | 次の段階の進め方と予算 | 試した業務が広がらず、試しただけで終わる |
1. 責任者を決める
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、共通の指針として、各主体においてアカウンタビリティを果たす責任者を設定することを挙げている。経営層については、経営層の責任は大きく、リーダーシップを発揮することが重要としている。
私の見方では、責任者は役員か、役員に直接話せる人がよい。利用ルールを決めるにも、業務の流れを変えるにも、部署をまたいだ判断が要るからだ。役職名をどうするかは、CAIO(最高AI責任者)とはに書いた。
2. 使ってよい情報とツールを決める
社員が個人の判断でAIを使うと、入力した情報の扱いが人によって変わる。会社として使ってよいツールを決め、入力してよい情報と入力してはいけない情報を書き出す。規程の作り方は生成AIの社内利用規程の作り方にまとめた。
3. 利用状況を把握する仕組みを作る
AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)は、AIガバナンスを作るときの準備事項として、組織内のAI開発・提供・利用の状況を把握する仕組み、リスク評価体制の構築、インシデント報告体制の構築、組織が扱うAIの特性に応じたルールの策定・運用の4つを挙げている。
把握する項目として手引きが示すのは、どのような目的・用途で、どの部門が、どのようなAIを使っており、どのようなデータを用いているか、といった情報だ。集め方は、利用者からの申請や定期的なアンケート・ヒアリングを例に挙げている。会社が許可していないAIの使われ方を洗い出す手順はシャドーAIの棚卸しの手順に書いた。
リスク評価については、すべての使い道を相談窓口に寄せるのではなく、基準を設けて、相談が必要な場合とセルフチェックで良い場合を分けるよう書いている。私の見方では、最初の3か月で全部を審査しようとすると窓口が詰まり、現場は申請しなくなる。基準を先に決める方が、結果として把握できる範囲は広がる。
4. 最初に変える業務を選ぶ
候補は部署ごとに出してもらい、責任者が1〜3個に絞る。私の見方では、回数が多く、入力と出力が文字で、間違いを人が確かめられる業務から始めるとよい。選び方の詳しい見方はAIで業務効率化を進める手順にある。
ここで大事なのは、業務を変える現場の責任者を一緒に決めることだ。AIの担当者だけで業務を選ぶと、現場の手順に合わず、試しても使われない。
5. 効果の測り方を決める
始める前に、対象の業務にかかっている時間と件数を測っておく。導入後に同じ測り方で比べなければ、効果は「なんとなく楽になった」以上にならない。時間だけでなく、やり直しの回数や確認にかかる時間も測ると、見かけだけの効率化を見分けやすい。費用と効果の比べ方はAI投資のROIの出し方に書いた。
6. 次の段階の進め方と予算を決める
3か月目の終わりに、続ける業務、広げる業務、止める業務を決める。続ける業務のうち、社内のシステムやデータとつなぐ必要があるものは、ここで初めて開発の予算が要る。私の見方では、最初から大きな開発予算を取るより、3か月の結果を見てから決める方が、何に払うのかがはっきりする。開発費の中身はAI開発の費用の内訳にまとめた。
月ごとの進め方
6つを3か月に割り振ると、次のようになる。表は私の見方による目安で、会社の大きさや業種によって前後する。手引きも、準備事項の取り組み順序は事業者ごとの状況に応じて変わりうるので、並行して対応することも念頭に置くよう書いている。
| 月 | 主に決めること | 終わったときにあるもの |
|---|---|---|
| 1か月目 | 責任者、使ってよい情報とツール、利用状況の把握 | 責任者の任命、利用ルールの初版、使っているAIの一覧 |
| 2か月目 | 最初に変える業務、効果の測り方 | 対象業務と現場の責任者、導入前の時間と件数 |
| 3か月目 | 試した結果の評価、次の段階の進め方と予算 | 続ける・広げる・止めるの判断、次の3か月の計画 |
1か月目: 土台を決める
責任者を決め、利用ルールの初版と、今使われているAIの一覧を作る。ルールは最初から完璧にしなくてよい。手引きの4つの準備事項のうち、インシデント報告については、まず連絡先だけでも決めておく。
2か月目: 業務を選んで測る
部署から候補を集め、最初の業務を選ぶ。現場の責任者と一緒に、今の手順と時間を測る。ここで測った数字が、3か月目の判断の材料になる。
3か月目: 試して判断する
選んだ業務で数週間試し、2か月目と同じ測り方で比べる。結果を見て、続ける業務、広げる業務、止める業務を決める。止める判断も成果だ。どの業務にAIが合わないかが分かれば、次の候補選びが速くなる。
体制は新しく作らなくてよい
社内AI導入というと、専任の組織を作る話になりやすい。だが、手引き(案)は、既存の体制があれば、AI活用のためだけに体制を新しく作る必要はない、という趣旨を書いている。内閣府の人工知能戦略本部が決めたAI指針も、既存のITシステムに適用しているガバナンスの仕組みを使うことも有用だとしている。
私の見方では、情報システム部門、リスク管理の会議、個人情報の担当など、今ある仕組みにAIの役割を足す方が、3か月で動き始めるには現実的だ。体制の作り方の例はAIガバナンスの体制の作り方に集めた。
足りなくなりやすいのは人だ。IPAの「DX動向2026」のポイントでは、DXを推進する人材の量が「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業は合わせて85.5%だった。社内の人だけで6つを回せないときに、どこを外に頼むかを決めておく必要がある。
外部に頼むときの考え方
私の見方では、責任者、利用ルール、最初の業務の選定は、社内で決めるべきことだ。外部の会社が代わりに決めると、3か月後に社内に判断の理由が残らない。
外部の手を借りる意味が大きいのは、業務の流れを作り直し、社内のシステムやデータとAIをつなぐ段階だ。頼む相手を選ぶときは、提案書の良し悪しより、現場に入って業務を作り直し、本番で使われるところまで付き合うかを確かめるとよい。こうした役割は、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる職種の仕事と重なる。FDEという職種はFDEとは?Forward Deployed Engineerの意味と仕事内容に、頼む相手の選び方はFDE支援会社の選び方にまとめた。
私たちが何をどこまで引き受けるかはサービス詳細に書いている。