生成AIの相談先を探すとき、最初に迷うのは「誰に聞けばよいか」だ。東京商工会議所が2026年6月17日に公表した「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」では、デジタルシフト・DXの状況がレベル2から4の企業のうち、83.9%の企業が生成AIを活用していると回答した。一方で、生成AIのガイドラインを策定している企業は7.7%にとどまり、課題には「セキュリティの確保」が46.7%で最多だった。私はこの数字を、使い始めてはいるがルールと守り方が追いついていない状態だと読んでいる。
生成AIの相談先は、相談の中身によって変わる。個人情報の扱いと、著作権と、業務のどこに使うかでは、聞くべき相手が違う。以下、公的な窓口で無料で相談できることと、民間の支援会社に頼むことを分けて整理する。窓口の名前・電話番号・受付時間は2026年11月5日に各機関の公式ページで確認したもので、変わることがある。
相談の中身ごとの相談先
まず、相談の中身と相談先の対応を一覧にする。表は私の整理だ。
| 相談の中身 | 公的な窓口 | 民間に頼むとき |
|---|---|---|
| どの業務から使うか、業務の整理 | よろず支援拠点、生産性向上支援センター | 社内の業務を棚卸しして、使う業務と順番を決めてもらう |
| 個人情報を入力してよいか | 個人情報保護委員会の相談ダイヤル | 顧問の弁護士に、自社の契約と運用に当てはめて確かめる |
| 生成AIと著作権 | 文化庁の法律相談窓口 | 知的財産に詳しい弁護士に、個別の案件として頼む |
| ウイルスや不正アクセスの被害 | IPAの情報セキュリティ安心相談窓口 | セキュリティの会社に、調査と対策を頼む |
| 社内のルールと体制づくり | (窓口はない。公的なガイドラインを読む) | 外部の専門家と一緒に規程を作る |
| 社内のシステムとつないで動かす | (窓口はない) | 開発会社やエンジニアに、設計から運用まで頼む |
公的な窓口は、制度の解釈や入口の整理に強い。自社の業務に合わせて作る段階になると、窓口の対象から外れる。この線がどこにあるかを知っておくと、相談先を探す手間が減る。
公的な窓口で相談できること
よろず支援拠点と生産性向上支援センター
中小企業・小規模事業者であれば、最初の相談先はよろず支援拠点になる。国が47都道府県に置いている経営の相談所で、経営上のあらゆる相談に何度でも無料で対応するとしている。対象には中小企業・小規模事業者のほか、NPO法人や創業予定の人も含まれる。
2026年4月からは、よろず支援拠点の中に生産性向上支援センターが置かれた。中小企業庁の担当者に聞いたミラサポplusの記事によると、業務の見える化、作業の標準化や工程改善、デジタルツールや省力化設備の導入検討などを、専門家が伴走して支援する。専門家は無料で複数回にわたり派遣され、専門家にはDXやAI活用の分野の人材も含まれる。相談の窓口はよろず支援拠点だ。
私の見方では、ここは「生成AIをどの業務に使うか」を決める前の段階で使うのがよい。業務を見える化してから道具を選ぶ順番は、AIを入れるときも変わらない。各都道府県の拠点と電話番号は、よろず支援拠点の拠点一覧のページに載っている。
個人情報保護委員会の相談ダイヤル
生成AIに顧客の情報を入力してよいか、という相談は、個人情報保護法の解釈の問題になる。個人情報保護委員会の個人情報保護法相談ダイヤルは、電話番号が03-6457-9849で、土日祝日と年末年始を除く9:30〜17:30に受け付けている。受け付ける内容は、事業者や行政機関等の個人情報の取扱いに関する苦情と、個人情報保護法や制度に関する質問だ。基本的な質問は、24時間対応のPPC質問チャットでも聞ける。
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表している。電話をかける前にこれを読んでおくと、聞くべきことが絞れる。入力してよい情報の線引きは生成AIと個人情報にまとめた。
文化庁の法律相談窓口
生成AIで作った文章や画像の著作権については、文化庁の文化芸術活動に関する法律相談窓口がある。対象の事項に「AIと著作権に関する事項」が含まれ、文化庁から事業を受託した弁護士知財ネットが対応する。芸術家だけの窓口ではない。AI開発やサービス提供を行う事業者など、芸術家等以外のAI利用者も、文化庁のガイドラインに関することや、自分の活動や契約に関係する問題を相談できる。
相談は文化庁のページの相談受付フォームから出し、土日祝日等を除き原則10日以内にメールで回答が届く。ただし、相手方との交渉や訴訟手続などの権利行使、そのための調査や証拠保全は対象外だ。社内ルールで決めておくことは生成AIと著作権に書いた。
IPAの情報セキュリティ安心相談窓口
IPA(情報処理推進機構)の情報セキュリティ安心相談窓口は、一般的な情報セキュリティ(主にウイルスや不正アクセス)に関する技術的な相談にアドバイスする窓口だ。電話は03-5978-7509で、土日祝日と年末年始を除く10時から17時に受け付けている。相談は無料で、通話料は相談する側の負担になる。法的解釈に関する相談や、契約・支払い方法に関する相談は受け付けていない。生成AIの使い方そのものよりも、AIのサービスを装った不審なメールやアプリの被害に遭ったときに使う窓口と考えるとよい。
民間の支援会社に頼むこと
公的な窓口が受けないのは、自社の業務に合わせた設計と、作って動かすところだ。ここからは民間に頼むことになる。頼む相手は、何をしてほしいかで分かれる。
| 頼みたいこと | 相手の例 | 先に読む記事 |
|---|---|---|
| 月に何回か相談に乗ってほしい | 顧問契約の専門家 | AI顧問とは |
| 方針と計画を作ってほしい | コンサルティング会社 | AIコンサルの選び方 |
| 現場に入って定着まで手伝ってほしい | 伴走型の支援会社 | AIの伴走支援とは |
| 社内のシステムとつないで作ってほしい | 開発会社、FDE | FDE支援会社の選び方 |
私の見方では、最初の相談の段階で相手を1つに決めなくてよい。方針だけを紙にまとめる相手と、作って動かす相手が別の会社になると、計画と実装の間で話が食い違いやすい。作るところまで頼む見込みがあるなら、最初の相談の時点で、実装まで担える相手かを確かめておく。現場に入り、業務と仕組みの両方を作る役は、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる職種が担う。どういう役かはFDEとはに書いた。
見積もりを比べるときは、金額だけでなく、何が成果物として残るか(業務の一覧、社内の規程、動く仕組み)を並べて比べる。
相談の前に用意しておくこと
公的な窓口でも民間でも、相談の質は持っていく材料で決まる。私は次の4つを1枚にまとめてから相談するのがよいと考えている。
| 用意するもの | 中身 | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 使っている道具 | 社員が使っている生成AIのサービスと、個人のアカウントか会社の契約か | 個人情報やセキュリティの相談は、契約の形で答えが変わる |
| 使いたい業務 | 業務の名前、担当の人数、月の件数 | 業務の整理の相談は、量が分からないと進まない |
| 入力するデータ | 顧客の情報、社外秘の文書、他社の著作物が入るか | 相談先を選ぶ手がかりになる |
| 決めたいこと | 「使ってよいか」「どこまで入力してよいか」「誰に作ってもらうか」 | 何を答えてほしいかが分からないと、一般論の回答になる |
社内でどのAIが使われているかを先に調べる手順はシャドーAIの棚卸しに書いた。中小企業が小さく始めるときの順番は中小企業のAI導入にまとめてある。
公的な窓口と民間を組み合わせる順番
私の見方では、次の順番で使うと無駄が少ない。
- 社内で使っている道具と使いたい業務を、上の表の形で1枚にまとめる
- 個人情報・著作権・業務の整理のうち、引っかかる点を公的な窓口で確かめる
- 自社の業務に合わせた設計と、作って動かす部分を民間に頼む
公的な窓口は無料で、制度の解釈について中立の答えが得られる。その代わり、自社の業務に入り込んで作ることはしない。民間は費用がかかるが、手を動かす。役割が違うので、片方だけで済ませようとしないほうがよい。
私たちの支援の中身と料金はサービスページにまとめてある。